ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~



「怪我人に頭突きしたあたしが言うのもなんだけど……もう怪我しないでね。櫂の身体は櫂だけのものじゃないんだから」


見遣った切れ長の目は、微かな甘さを滲ませ、そして櫂は、ふっ…と柔らかい笑みを浮かべた。


「心配ないさ。ただ……お前まで危険な目に遭わせたのは悪かった。これからは俺が傍にいるから」



櫂の――…

揺れる漆黒の瞳の奥。



切なげに揺れる奥に、闇が見える。



燻(くすぶ)るように、

冥い闇が見え隠れしている。



――……ちゃあああん!!!



何だか不思議に懐かしく…
 
その闇に触れたくなった。


拡げたくなった。



――芹霞ちゃあああん!!!



だからあたしは――


「あれ……?」


伸ばした手が、指先から闇に溶融する。


"あたし"が、段々と闇に侵食されていく。



ぐらり。


世界が大きく揺れる。



――ぎゃははははは。


「――…!!!? 

―――……」


どこか遠くで聞こえた櫂の声は、下卑た笑いにかき消され……あたしの意識は――


闇よりも深い場所に沈み込んだ。


深く深く…。


闇の深淵に向けて。



堕ちていく――…。



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