櫂Side
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「芹霞!?」


目前で崩れ落ちる、嫋(たお)やかな身体。


肩まである黒髪が床に散る寸前、

誰よりも早く芹霞に伸びた俺の手は――玲に払われ、そして芹霞の身体は煌の腕に収まった。


俺ではない…男の中に。


判っているよ。


煌は…反射的に、人として当然な行動をしただけ。

煌は俺が信頼する幼馴染だ。


だけど――


「……玲」


煌に覚える不条理な嫉妬。


それと同時に――

満たされぬ…やり場のない怒りは、玲に向いた。


それを悟っているだろう鳶色の瞳は、

真っ正面から俺を真っ直ぐに見つめてくる。



「櫂。芹霞は今…

闇に魅入られている」



乱れた精神を持つ俺とは対照的に、何処までも落ち着き払った声音の玲。


煌の腕から…規則正しい芹霞の寝息が聞こえる。


「立て続けに触れた闇が、彼女の許容を超えたようだ。彼女が無効化できない不安定な状況で、安易に闇を煽るべきじゃない」



両手で芹霞を抱きかかえた煌は、俺と玲を見比べ…どうすべきか当惑している。


「煌。大丈夫だから。

芹霞を部屋に寝かせてきて」


玲の指示に、煌は惑う。


「俺は別にいいけどよ。

櫂、お前が行きたいのなら…」


芹霞を俺に託そうとする煌に、玲が毅然と言い放つ。


「煌、櫂のことは気にするな。

早く芹霞を休ませてこい」


声色を変える玲に、煌は…


「…あ、ああ…。

じゃあ…寝かしてくるぞ、櫂…」


俺が納得していないということは、はっきりと顔に刻まれているのだろう。

煌は心底申し訳なさそうな顔をしながら、部屋から出て行く。


俺は見送る。


愛しい存在が、俺から遠ざかる…それを。

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