ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├王子様の安堵

 櫂Side
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東京都三鷹市――。


東京都23区よりも活気はやや失われるが、天然の緑と水に囲まれた、落ち着いた景観を持つ街並み。


都内でも屈指の高級住宅街として有名な…世田谷区成城に本家を構える御階堂家にとって、例え穏健派として名高い旧家とはいえど、こんな区外に追いやる分家の扱いは、幾分非情なぞんざいさを感じる。


本家を模した純和風の…平屋造りの屋敷。

紫堂本家の敷地面積には満たない広さなれど、その日本的な景観は情緒に溢れたもので、内部からどの角度でも"和"を楽しめるようにと計算されて作られた、分岐の多い長い渡り廊下が――正直今は邪魔なだけ。


何もかにもが忌々しいだけ。


此処が――

御階堂充の育った家だと思えば。


厳密に言えば、元住処という表現が正しいだろう。


俺は考えてみた。


成城の本家に本陣を移したあいつにとって、最早用無しとなったこの分家に、芹霞達をつれてきた理由。


俺達を出迎えた黒服…傭人を、必要以上の多さで、今尚この家に待機させていた理由。


どう考えても――

突発的な偶然事項とは思えない。


芹霞を軟禁したいのか、俺を排除したいのか。


否――

その双方を同時に満たす為に、既に考えられていたものだったのだろう。


そう思えばこそ、尚更気分が悪い。



飛び交う、鋭い殺気。

手慣れた暗殺術を持つ男達。



いつも俺を守っていた、橙色の護衛は今はいない。


――では、櫂様。桜は裏門から行きます。


小さな黒い団長もいない。


――僕は"あの部屋"に行ってみる。これが間取り図。後で合流だ。


俺の白い従兄もいない。


今は俺は1人。



そう、1人で何とか出来ると、誰もが判断したからこそ…俺は此処に居る。

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