ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├お姫様の爆笑

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目を開ければ――

見慣れぬ白い天井が見えた。


装飾らしい装飾が見られないのが、逆に無駄な装飾としてしか思えない…そんな贅沢な造りをした、知らない部屋に居るらしい。


此処は何処?


注意深く目を配れば――

視界に入ったのは、存在感を示すワイン色。


絨毯と…カーテンの色。


それらのワイン色に描かれている…金色のような黄色の柄。


――へえ、ロイヤルホテルは、『気高き獅子』をイメージした、"獅子"の紋章をロゴにしてるんだ?



ああ…此処は――

ロイヤルホテルだ。


体を少し動かせば、体に返ってくる…独特な抵抗感。


そこで気づく。


あたしが居たのは、低反発のマットが敷かれた、ふかふかなベッドの上だった。


体にかけられた羽毛布団。


その上にあるのは…

光沢あるシルバーグレイの上着。


………。


朧気な記憶が蘇ってくる。


――婚約者の、神崎芹霞さんです。



この服を着ていた…

腹立たしい男の記憶を。



「~~、~~ッッ!!!」


喋れないのを忘れて叫ぼうとしたあたしは、喋れなかったことを思い出し、そのもどかしさに憤然としながらも…現状を認識した。


………!!!?


声のような…手応えを感じたんだ。


まだ"カスカス"としているものの、

透過するようなものではない。


明らかに――

戻りつつあるあたしの声。


何が要因が判らないけれど、

あと少し我慢すれば…あたしは喋れる!!!


どんなバアサン声でもいい。


声さえ戻れば、まずは怒鳴り散らしてやる!!!


泣き寝入りするような、芹霞サンではないわ!!!


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