ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├警護団長の不安


 桜Side
***************



紫堂というものは、特異な集団である。


表向きは財閥、実業家的なイメージが強いが、実質は違う。


その血を引くものは、それが肉体的であれ、精神的であれ、常人には理解しがたい"異能力"を持つという。


それ故、東京最大の権力者に気に入られ、そのバックアップにここまで急成長できた。


その代償は、非情なまでの奉仕。


紫堂は常に監視されている。


それに対抗するように作られたのが、警護団というものである。


体裁は紫堂の要人の警護(ガード)だが、諜報や工作など、表に出せないような全ての策略実行部隊。


お庭番、というのは聞こえがいいけれど、実際はもっと穢れている。


――紫堂の為に生き、紫堂の為に死ぬ。


幼い頃から、そう叩き込まれた私――

葉山桜にとって、それは、然程抗すべき事柄ではない。


自分の命を預ける場所は、私が納得できる最高の場所でありさえすればいい。


私は生まれながらに高い戦闘能力があり、幼少から大人の実戦に狩り出され、期待通りの実績を積んできたようだ。


敵は確実に、素早くしとめる。


動物的な狩猟本能は、更なる真紅色の高みを目指し、気づけば残虐な世界に一人佇んでいた。


それを私欲に向けなかったのが、僅かな救い。


紫堂の為という精神に刷り込まれた縛りが、私という存在をかろうじて支えていた。


私以上に強い者はいない。


そんな思い上がりにも似た矜持を、

木っ端微塵に打ち崩した男が、玲様だった。


なぜ拳を交えたのか――

今となってはその原因が思い出せないけれど。


――ふふふふ。


玲様は笑顔を崩すことなく、私を制した。



その晩、私は――

初めて悔し涙というものを経験し、それ以来、必死に技を磨いた。
< 67 / 974 >

この作品をシェア

pagetop