ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├お姫様と戸惑い

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空気が重い。


原因は煌だ。


煌が何かおかしい。


短気で短絡思考の奴は、今までもおかしなことをやってはいたけれど、それとは種が違う気がした。


単細胞の…陽気な馬鹿とはまた違う、笑えないような…深刻な空気が漂っている。


感じる…危機感。


その危惧はあたしだけではないんだろう。


優しい玲くんが人前で真剣に煌を殴り、皆の前で櫂を怒った。


いつもならありえない。


いつもの玲くんは――

煌に手を出すことはあるけれど、あんなに真剣な顔で攻撃したことはなく。

櫂を弄ることはあるけれど、人前で怒鳴ることはない。


それは…櫂を立てているからで。


いつもにこやかに微笑んでいる玲くんの端麗な顔には、今、煌を見て…焦りのようなものを浮かべている。


玲くんも気づいている。

そして無言で事態を見つめる桜ちゃんも気づいている。

恐らく櫂も。


煌が何かおかしいことを。


だから、それを何とかする為に…玲くんは憎まれ役を買って出たのだろう。


煌は玲くんに殴られ、地面に座り込んだまま…褐色の瞳に鋭い光を宿して。


睨み付けている。


殴った玲くんではなく、櫂を。


ありえない。


煌が、櫂を睥睨するなんて。


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