ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├お姫様と電脳オタク3

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◇◇◇



「芹霞ちゃんに逢えないで…

100年も眠るなんて嫌だあああ!!!」


突如泣き出した櫂に、あたしは焦った。


「櫂、これは童話のお話だよ?」


あたしの手元にあるのは、

グリム童話『いばら姫』。


まだ平仮名も読めない櫂に、

あたしは一生懸命、絵本を読んであげていたんだ。


すると、いばら姫が眠った場面で、櫂が突然泣き出してしまった。



「僕は芹霞ちゃんに逢えないのは嫌だああああ!!!」


櫂はいつもそう。

可哀相な子が出て来るとすぐ泣き出しちゃう。


今度は眠ったお姫様を、自分のことのように思ったんだね。


「芹霞ちゃん、僕を1人にしないでえ!!!」


そう縋ってくる、泣き虫の櫂は可愛すぎて。


あたしは胸に抱くと、いつものようによしよしと頭を撫でた。


柔らかな髪の毛。

まるで小動物のように震える櫂。


あたしのあたしの、可愛い櫂。


「櫂、ほら見て? 眠っても…ちゃんと王子様が迎えにくるでしょう?」


あたしが広げた絵本は、丁度…王子様が勇ましく剣でいばらを薙ぎ払っている処で止まる。


「芹霞ちゃん…迎えに来てくれる?」


あくまでお姫様の櫂。

涙で濡れた、不安げな目を向けてくる。


「勿論!!! あたしは、いばらを手で引き千切ってでも、カイ姫を助けに行くからね?」


そう言うと…櫂は嬉しそうに笑って、


「芹霞ちゃん、大好き!!!」


また、あたしに抱きついた。


「あたしも櫂が大好きだよ?」


力一杯ぎゅうをすると、

凄く凄く幸せな気分になってくるんだ。



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