ひめがたり~いばら姫に真紅の薔薇を~

├電脳オタクの奮迅

 玲Side
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まるで――

夜のような…暗澹たる空の色合い。


轟く地鳴り。

うねる…無数の竜巻。


存在するものを全て無に還すような勢いで、此の地を…東京の地を襲っていた。


その凄まじい風圧に、防御結界を最大に努めても、結界が壊れるのも…時間の問題だろう。


しかも…ただの風ではない。


闇に引き摺り込みそうな…無慈悲な強制力を持って、例えようのない"何か"の存在に震駭させられる。


言うなれば、形のない"何か"が…最大限の悪しき心でもって自由自在に此の地を闊歩しているような。


それが"悪魔"という存在と、

一体何が違うというのだろう。



怖い。


率直なその感想。


今までひと言で"闇"と括ってきたその存在は、例えば電気、例えば炎など、有限物質よりも遙かにその質量は大きく、存在感は凄まじい。


この闇の風に触れたら最期…

闇に引き摺り堕とされるだろう。


二度と這い上がることの出来ない、冥い闇の底に沈められるだろう。


きっとそこは最悪の場所――

"地獄"という世界なのかもしれない。



櫂は――

こんな力を宿していたというのか。


このレベルなら、紅皇、氷皇並かそれ以上か。


僕の力など及ばない。



そんな闇の中…


朧に輪郭を見せるのは、

櫂と芹霞の姿。


動かぬ芹霞を――

櫂が強く抱きしめ、叫んでいる。



この暴風――


これは櫂の慟哭だ。



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