スパイダーは夢を見るか
寂寥の月


失いとは何か。

決まって一人の夜。
貴方がいないと考えてしまう。

暗い部屋の中。
沈まないソファ。
片付けられたマグカップ。
付かないテレビ。
聞こえない、声。


これが孤独と云うのか。


膝を抱えて小さくなる。
包み込んでくれる筈の体温。
此処にはない、体温。

笑う事は出来るのに。
涙は出ない。
乾いた笑い。乾いた涙。

寂しい。
寂しくはない。

淋しい。
淋しくもない。

震えない携帯。
鳴らないチャイム。
聞こえない、音。






…月の光が眩しい。

普段感じる事のない感情。
一体いつから。
月を見なくなったのだろう。

一緒に居て。
話して。
抱きしめて。
月よりも見ていたいものがあった。


月が眩しい。
眩し過ぎて、見失う。

輝かないで。
これ以上、孤独を感じたくないから。


カーテンを閉める。
光のない部屋。

何も見えない。
それでいいと思った。

飾られた写真立て。
並んだマグカップ。
二人で買った、ガラステーブル。

此処は
二人の物が多すぎた。

笑えない。
何も笑えない。

孤独。独りきり。
やっぱり涙も出ない。

抱きしめて、体温。

暗闇でも。
見えなくても。
此処に、いるから。





不意に。
音。金属の音。
聞き慣れたその音。


「ただいまー」
「、!」


聞こえた声。
擦れる足音。
何度も聞いた、貴方の癖。


電気を付けた。
明るい部屋。

目の前にいる。
ただいま。
いつもそう言って
笑顔で抱きしめてくれる。
感じる体温と鼓動。

此処にいる。
貴方が、此処にいる。


「寂しかった?」
「…いいえ、」


嘘。
そう言って頭を撫でられる。

寂しかっただろう。
そう言った声に、涙が出た。

寂しかった。
寂しかったよ。
本当はとても寂しかった。


「可愛い子やね」


大好き。

(そう言った貴方の言葉は
砂糖菓子よりも、甘い)


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