恋愛色々超短編集

この恋、きみ色

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
初々しい恋 Ep.02
 ♂新田(17)×浅井♀(17)の場合
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

窓の外からは掛け声や砂を蹴る音が聞こえ
少し傾いた日差しが射し込み
教室の中はカリカリとなにかを描く音や
カタカタと筆を洗う音
そして時折衣擦れの音が
静かに響いていた。

そんな放課後の美術室。

「…おりゃ…うりゃ……むむ」

隣から謎のうめき声が聞こえて

ちらりと横目で見ると

絵の具の青のチューブを全力でひねる
浅井の姿が見えた。

キャンバスを見ると青や紺や青緑を基調とした
抽象的な絵が描かれている。

“これは私の頭のなかなの”

と浅井は言っていた。

俺には理解し難い世界である。

美術部だけれども
自分の頭の中を色と形だけで示せと言われても
きっと間違いなくそれは出来ない。

目の前にある自分のキャンバスに目線を戻した。

ほぼ色は入れてあるけれど
まだ一ヶ所だけ決まらない。

この扉の先、何色に塗ればいいのか。

浅井のキャンバスがふと脳裏をよぎった。

青にしようか。

彼女の頭の中は青だ。
悪くない。

青の絵の具に手を伸ばしたそのとき

「あ、新田、その青使ってる?悪いんだけどちょっと分けて?」

「え?ああ、いいよいいよ。…はい。」

ありがとう、とその笑顔にまた胸が跳ねた。

「絵、あとどのくらいで出来上がりなの?」

青のチューブを受け取りながら聞いてみた。

俺の青と彼女の青をぐるぐる混ぜながら
んー、と眉間にうっすら皺を寄せた。

「大体出来てるんだけどね、あとすこーし色を足したいかなって感じ。青以外のね。」

「へぇ…浅井の絵ほんとすげぇよなあ…俺も頑張らなきゃ。」

「新田のだってすごいじゃん。あたし結構好きなんだよ、新田の絵。」

「マジ?ありがとう。」


ふふっと微笑みを残して、また静かな空間に戻った。

青は、やめよう。

扉の先は淡いオレンジにしよう。
俺の中の君は暖かくて
柔らかい色だから。


扉の先を君の色で染めちゃう
くらいだから

きっとこの恋はきみ色に染められる

---end---
< 2 / 3 >

この作品をシェア

pagetop