完熟バナナミルク
吸血鬼と蝉
「いらっさいませー」

あたしは今、蚊に刺され…違う。
コンビニで働いている。
なぜ、そのような事になっているのか、あたしにも分からない。

「いらっさいませー」

朝起きたら突然所長があたしの上に馬乗りになっていて、あぁ、とうとう本性を現しやがったなこの変態め。
あたしは心を許しても体は絶対許さないぞ、と思っていたら、

「椎名君、とりあえずここに行って適当に動いてくれ、あとは任せた。」

なんて、さっぱり見当違いな事を言われ、紙切れ一枚と錠剤10粒を渡され現在に至っている。

「いらっさいませー」

しかし、なんだろうかこのコンビニという物は。
来る人来る人皆、雑誌を見る振りしてエロ本コーナーを一通り物色し、そして栄養剤を買って帰ってゆく。

「なんか今日変な人多いですね、椎名さんのせいかな?」

…どういう意味だこの女。
あたしの横に居るのは、一応先輩になってしまう19歳の千春。

「なんだか今日は変な物ばっか売れちゃって、補充が大変…あ、椎名さんはいいですよ。私やりますから。」

変な物?エロ本に栄養剤、避妊具が?
何を言っているのかさっぱり分からない。
いや、あたしがここに居る事自体意味が分からないところだけど、この女の言っている事もおかしな話だ。
そんな日があってもいいじゃないか、人間は年中発情期で、24時間営業の便利なこの場所に、欲求のはけ口を求めて何が悪い?
そもそもだ、エロ本を見てエッチな行為に及ぶとも限らないだろう。
芸術活動の為の参考資料なのかもしれないし。栄養剤だってそうだ、皆疲れているんだ、あたしみたいにがっつり12時間眠れる人間なんて、そうそう居やしないだろう。
避妊具だってそう、きっと水風船にして遊んだり、そうだな…あとはえーと…。

「椎名さん…大丈夫?」

おわっ…千春の顔が5ミリ位の近さで横にあった。あたし耳弱いんだよ。近寄らないで!

「はっ!何がっすか?あたし全然眠くなんてないっすよ!」

「ふーん、あ、そろそろ雑誌入れ替えよっか。0時過ぎたし…」

あたしは一体どこへと向かっているのだろう。
そして、今、あたしは何を試されているのだろうか?
所長、あなたの本心が知りたいです。
< 5 / 6 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop