雨音色
進展、そして後退。
「おはようございます」


既に彼女と会ってから1週間が経とうとしていた。


その日の朝も、いつも通りの格好で、藤木は牧の研究室を訪れる。


両手には、顔を隠すぐらいの本が大量に抱えられていた。


「藤木君、おはよう。独逸語の辞書かい?」


言うや否や、牧は独逸語の辞書を本棚から取り出し、


彼の両腕の中の本の山に、それを重ねた。


「あ、ありがとうございます」


その重たさに、思わず彼がよろめく。


「そうだ。藤木君」


部屋から出ようとしていた藤木は、立ち止まった。


「はい?」


「今日、君の4限目の授業、私にさせてもらえないか?」


「え?先生がですか?」
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