知らなかった僕の顔
午後7時、居酒屋「酔ってけ屋」は、大盛況だった。

長谷川の言っていた合コンは、まるで同窓会のような人数になっていた。

隣に座る長谷川に
「僕は来る必要あった?」と力なく聞くと

「なんかな、いつの間にこんな人数でさ。まあ、いいじゃん。何かいいことあるって」と調子のよい答え。

…まあいいか。
飲んで食って帰ろう。

とりあえず、各テーブルにつく男女を観察した。
ざっと20人はいるだろうか。

僕も含めて、みんなどこにでもいる普通の大学生だ。

ものすごくお洒落な女の子もいた。

でもそれは、雑誌モデルの完璧なコピーであって、個性的とは言いがたい。

男は僕と同じように、Tシャツにジーンズがほとんどだ。

近くにいる者それぞれが、まとまりもなく喋りあっている。

僕と長谷川の向かい側には、まだ二人分の空席が残っていた。

トイレと近すぎるこの席は、あまり人気がないようだ。


「あーっ!森若ちゃんが来た!」

長髪の男が、大きな声で嬉しそうに言った。

男の目線をたどると、背の高い綺麗な女の子と、赤いワンピースを着た小柄な白髪のお婆さんが、こちらへ向かってきた。

近づくと、お婆さんではないことがわかった。

ベリーショートの髪を銀色に染めた、少し猫背の女の子だった。

二人は、長髪の男と楽しげに何か話し、空いている席を探しはじめた。

僕の向かい側の空席を見つけ、二人はゆっくり近づいてきた。

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