苦い舌と甘い指先

あと一人










その日の夕方、ミツがあたしの家に遊びに来た。


「肥後の事で話がある」



そう言って上がり込んだその手には、きちんと手土産が握られていて。


ミツの律儀さが良く伝わって来た。



「それ、あたしの好きなビーフジャーキーだろ」



「……美術室で、怒鳴っちまったからよー。ギクシャクしてたじゃん?

和解のシルシに、って事で」



「…分かってるよ。あたしも悪かった。

お前の言う事に間違いなんて無いもんな」



取り合えず上がれ、と、部屋にミツを通す。



途中母ちゃんが『今日も食ってくでしょ?カレーだよ』とミツに笑いかけ、ミツが『食う食う!沢山作っといて!』なんて無邪気に笑ってたけど。



話って、何だ?



でもまあ、この様子だと別に大したことは無いんだろう。




ダークブラウンの扉を開け、モノトーンで統一された部屋に入る。


ぬいぐるみの類が一切ないあたしの部屋は、普通の男よりも男らしい部屋かもしれない。



冬にはコタツになるテーブルに、貰った大量のビーフジャーキーをばら撒いて



「その辺座れよ」



早速封を切りながらミツに指示を出した。




< 29 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop