この涙が枯れるまで
~第十四章・迷い~


―日曜日…
僕は朝早くナナの家に向かった。
今日はナナの引っ越しの日だ。


──…ピーンポーン



『はぁ~い』




『おはよ、ナナ』


『優おはよ!!あがって?』

ナナの部屋は段ボール箱が山積みになっていた。

『結構片付いた?』


『うん、大体片付いたよ~』



『引っ越しのトラックは?まだ?』




『もうすぐ来るんじゃないかな?座ってて?』




『うん~』



僕はソファーに座り、テレビを付けた。
テレビの上にはまだ修学旅行の写真が飾ってある。
僕はその写真が視界に入らないように、視線をずらす。


『優?』



『ん?どうした?』




『今日はつけてないの?』



『何を?』



『何をって……香水…』



今日は香水をつけて来なかった。
ただ忘れた訳じゃないんだ。
一日だけでもいいから、最悪の誕生日を忘れたかった。
百合から初めてもらった香水の匂いを僕から取りたかった。
そうしないと、また思い出してしまうから。




『…忘れたんだ…朝忙しくて…』




『そう…なんだ…ごめんね?変な事聞いて…』



ナナは悲しい瞳を僕に見せた。




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