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壊れかけの人形
 

 雪が降る。

 雪が降る。

 ひらひらと。

 ふわふわと。

 信じられないほど美しい光の粒が。

 舞い落ちる先は、地面。

 枯れた草と。

 骨格だけになった見知らぬ木と。



 そして、僕の冷え切ったカラダの上に……



 案の定。

 かなりしつこく追ってくる武蔵川、他、研究所のミナサマから逃れるべく。

 通常視覚はもとより、熱源探査も効かない。

 夜の上に、吹雪で視界ゼロの原を、必死に走っているうちに、足を滑らせた場所がマズかった。

 かなり落差のある崖で、ずるっと行った、と思ったら、そのまま下まで滑り降り。

 ご丁寧にも、流れる川に落っこちた。


 どぶんっ!


 ……と、冷たい水に浸かって、流されながら、そうか。

 有機物でできた、僕みたいなアンドロイドって、水に浮くんだ、なんて。

 くだらないコトを思いながら、川に流された。

 それでも、なんとか。

 川の岸辺にある氷の張ってる岩の上に這い上がると。

 仰向けになって、舞い落ちる雪を眺めた。

 愛しいオリヱを求めて熱かった僕のカラダは、急速に冷えて来て。

 身体中の水分という水分が、凍ってゆく感じに。

 さすがの僕も、これは、マズイかな、と思い始めていた。

 このまま放っておいたら、全機能完全停止……つまり。

 人間の言うところの……死、だ。

 でも、場所を探ろうにも。

 僕に搭載されたGPSでの情報は、周辺は、地図上では『山』で。

 道らしい道が無いコトを示すばかりで、役に立たなかったし。

 研究所の出がけに自分のデーターを消して来たことを考えると。

 あとは、僕が完全に機能停止した時に発信される最終信号以外に、助けは、期待できなかった。

 それでもまあ、夜が明けたとたん、更に美しくなった雪景色を見ながら。

『死』の意味も、良く判らずに。

 こんなにキレイな場所にせっかく居るのなら。

 視覚機能が停止するまで、見ていようと、仰向けに寝転がったまま。

 雪が僕に向かって降るのを見つめていた時だった。
 
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