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縛られた傷
『スリープ・モード実施中。

 解除条件:8時間後。

 もしくは、規定デシベル以上の音量』




 ……つまり、簡単に言うと。

 ある程度以上、うるさくない限り、僕は、朝まで眠る予定だった、ってことだった。

 外は、まだ嵐のような猛烈な吹雪だったから。

 よほど、大きな音が響かない限り、僕が起きることは、ないハズだった。

 なのに。

 目覚めてしまったんだ。

 まるで、悲鳴をあげるかのように。

 切なく、すすり泣く声が聞こえたから。


「……桜?」


 声の出どころを探れば。

 寝袋にくるまって桜が自分の手を握りしめて眠っていた。

 川岸で会った時の逞しさも。

 襲って来たら、殴る、と宣言した時の強(したた)かさも無く。

 悲しみに、耐えきれないかのように。

 華奢なカラダを震わせ丸くなってる、一人の女性の儚い姿がそこにあった。

 悪夢、っていうヤツでも見ているんだろうか?

 昼間の時とは全然違う変わり様が、何だか、とても不安で。

 僕は桜を、起こそうとした。


「桜……?

 桜ってば!」


「あ……シン……?」


 僕の声に、目覚めたらしい。

 髪を乱した桜が、ぼんやりと、僕を眺め……

 次の瞬間。

 がばっと、寝袋の中に引っ込んでしまった。


「な……なに?」


 僕が桜の反応に、戸惑えば、彼女は、寝袋の中で、叫んだ。


「シン! 服着て! 服!

 裸じゃない! なんでそんな格好でうろうろしてんのよ!」


「え? そんなこと言ったって……」


 仕方が無いじゃないか。

 今まで着ていた服は雪に濡れて、薪ストーブの前に掛かっているし。


「部屋の中では、服を着てても脱いでも、本人の自由なんじゃ……?」


「女子の前で、裸でいるなんて信じられない!

 自分の家での習慣に、口出す気はないけど!

 ここでは、他人の前だし半分『外』でしょうが!

 子供じゃあるまいし、なんで、そんな格好で、近づいて来るのよ!」


 変なこと考えてたら、殴るわよ!

 と叫ぶ桜に僕はため息をついた。
 
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