あの記憶は思い出すことなかった。消しておきたかった、留めておきたくなかった。

憎い、赦さない。

でも、私はーーー



第二章 運命の悪戯か





生まれ育った地に名残惜しそうに振り返る。小さな丘の上に立ち、今までいた場所を見つめる。
無音の地も離れ、今はそよ風が漂う草原に立っている。優しい風がシルフィーの結っている長い髪を遊んでいる。

暗い緑色を見せる林の中には故郷の神秘の湖がある。これからどうなっていくのか、全く予想がつかない。


シルフィーは唇を強く閉めると踵を返し郷を離れた。

不安しかなかった。
一つの選択肢しかなかった。

行くと言ってしまったから今さら『やっぱり…』とは言えない。しかも今日知り合ったばかりのもの(精霊)と旅をしなければいけない。
上手くやっていけるのかと比較的誰とでも早く仲良くなるシルフィーでも今回は少し心配になった。歩きながら苦い表情を浮かべた。


「本当に良かった」

ちょこんと右肩に乗っている精霊フェンは言葉を発した。今は小さな光となっているがシルフィーの肩にくっついている様は恐らく座っているだろう。


「何が?」

「一緒に来てくれること」

シルフィーはうっと言葉が詰まらせる。やっぱりと言いかけたシルフィーは目を泳がせ始めた。

フェンはシルフィーの肩を離れると目の前に浮かび始める。


「邪導師の影響は相当よ。徐々に封印の力が弱まり魔物が現れている。雑魚ならまだしも強い力を持った魔物さえも出現しかねない。
そうなると普通の魔導師じゃ歯が立たなくなる」

先程の親玉の魔物を思い出す。あの魔物が世界中に現れると思うと身震いした。


「魔物の力は計り知れない。一瞬にその国を滅ぼすことも簡単よ。邪導師が復活する前に世界が崩壊していくのも考えられる」


崩壊…?

シルフィーの脳内に魔物の映像が映る。

数え切れないほどの数が国を覆い、人を襲い建物を壊滅させる。そんな風に考えると愕然とした。


(早く何とかしないと、私には何が…っ!)

気がつくとフェンに視線を向けた。フェンは力強く頷いた。


「そう。あなた達、選ばれし者には強い魔物も簡単に倒すことのできる力を持っているわ」

「それが賢者の力」


体中にみなぎる熱い鼓動がそうなのか。見つめる手の内にフェンの姿が見えた。驚いて手を宙に投げ出せばクスクスと笑い始める


「心配しないで、自分を信じて。早く仲間を探して神様の所へ行きましょう」

フェンの優しいほほ笑みにいつしか不安が溶けていくのを感じた。


不思議……。

何でこんなに自分のことを信じてくれているのだろう。


陽だまりの笑顔。
自分を本当に信じてくれている。


「……うんっ!」

心が暖かくなった。
温かな笑顔を向けるフェンに顔がほころんだ。



――フェンとならやっていける気がする。


やっと笑ってくれた!と喜ぶフェンにシルフィーは照れ笑いを浮かべた。


恥ずかしそうに、でもどこか意を決した表情は凛として美しかった。