あひるの仔に天使の羽根を

・残酷 玲Side

 玲Side
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目の前で、魔方陣が粉砕された。


動いた様子もないのに、あっと言う間に瓦礫の山で。


顔色一つ変えず、髪も乱れぬ整然とした佇まいのまま、涼しい顔で榊は振り返る。


「さて、これで"中間領域(メリス)"での私達の役目を終えました。後は"混沌(カオス)"組で最後」


この領域での魔方陣破壊は、どの組よりも多いのに…1つも石の扉に行き当たらなかった。


――開けたんですか? ご愁傷様。


開けずとも行ける道があるのだと知ったのは、つい先程。


僕も煌も…身体に負担をかけてまで"闇"の力を使ったというのに。


完全に調査不足だ。


「あ、でも…開かなくてはいけない石の扉もありますから、そんな気落ちしなくてもよろしいですよ」


僕はまだ――

目の前で薄く笑う…紫紺色の男に心を許すことが出来ない。


理由ならある。


桜を傷つけたから。

そして氷皇の手下だから。


だけど、それ以上に拒みたい…僕の心がある。


個人的に深く立ち入りたくない、そんな奇妙な警戒心がある。


だから僕はあくまで境界線の向こう側に立ち、腕を組んで榊に尋ねた。


「氷皇は…何を狙っている?」


明らかにならない青い男の意思。


「紅皇のような慈悲はあの男にはない。あの男にあるのは利害のみ。紅皇と共に行動しているのは、そうすることがあの男にとって、"利"であり"必然"だからだ」


すると榊は笑った。


何処までも、主と呼ぶ青い男に似た…食えぬ笑みで。


「それだけ判っているなら、十分じゃありませんか」


つまりは、僕達の救い手ではなく、別の…明確な目的があると。



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