あひるの仔に天使の羽根を

・痕跡 櫂Side

 櫂Side
***************


目の前で須臾が帯を解いていく。


それに表情を崩しているのは芹霞だけで。


各務の連中は身動ぎ1つしない。


恐らくは――

彼らの頭の中は、それ処ではない"喜悦"で一杯なのだろう。


何れ来る…いや、もう既に幸せの予兆を感じているのか。



「かかかか櫂!!?」



馬鹿だな、芹霞。


俺が他の女に心動くはずがないだろう?


裸だからなんだ。


そんなもの…唯の風景の一部にしか過ぎない。


お前以外に反応する…俺の"男"は何もないんだ。


"女"の裸に悦ぶのは、"あいつら"だけで。


そう、これは"あいつら"に油断を誘うもの。


俺が今見たいのは、須臾の裸ではない。


背中に現れるという巫子の証。



「さあ――どう?」



純真な初々しさなど微塵もなく、安っぽい商売女のように…豊満な肉体を誇らしげに披露始める須臾。


そんな女に、俺がつけたという赤い…罪の名残は、俺の愚かさを象徴する"後悔"の痕跡以外の何ものでもなく。


出来ればあの皮膚ごと、一切合財剥がしてやりたい心地だ。


絶対俺がつけていないと断言できる位置にも、真新しい痣はあり…直前のサバトというものがどういう類のものだったのか、容易に想像できた。


俺もまた、魔女に群がる男の1人と数えられたかと思えば、腸が煮えくり返る思いだ。


「あるでしょ? "聖痕"は……」



くるりと俺に背を向けて。



見せられたその背中には――


うっすらと…何かの大きな痣は、確かに存在している。



< 1,181 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop