あひるの仔に天使の羽根を

・追憶 煌Side

 煌Side
***************


「桜!!!?」


突然――


桜が絶叫を上げたから、俺は吃驚して振り返る。


すると今まで視界を走り回っていた小さな漆黒色は、両手で…髪を引き千切るかのように鷲掴みにして仰け反り、空に向けて声を振り絞っていて。


「ああ、くそっ!!! 邪魔だ!!!」


俺の動きを制するかのように襲いかかる大量の屍を、旋回した偃月刀で切り裂いて撃退しながら、俺は片手で桜の細い身体を抱き留める。


「桜!!? おい!!!」


桜の様子が明らかにおかしい。


目の焦点が合っていない。


顔が蒼白を通り越して、真っ白で。


異常過ぎる汗をかいていて。


「やめろ、やめろ、僕は…僕は!!!!」


恐怖の体現。



「やめてくれええええ!!!」



桜が…


無感情の桜が、"恐怖"…?


その時、また屍達が押し寄せて。


元より斬っても死なない厄介な奴らだけれど。


塔の入り口を守っていた俺達が、その任務を放棄すれば、屍は俺達か入口かの2方向に詰め寄せるのは必須で。


死なねえ奴らの数は膨れあがるばかりで。


振り回し続けた、俺の偃月刀。


これ1つで、何処までこの状況を切り抜けられるか。


息絶え絶えの俺の体力で、こんな桜を庇い…何処まで突っ走れるか。

< 1,268 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop