あひるの仔に天使の羽根を

・迷宮

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皆で徐(おもむろ)に、暗がりを歩み始める。


一度細くなった通路を1列になって抜けた先で拡がる景色に、あたしは思わず絶句した。


果てなく拡がる白銀色。


近未来の世界を描いた映画を見ているような心地さえする。


「各務だから鏡か?

鏡の迷宮(ミラーハウス)のようだな」


櫂が少しだけ嗤った。


そう、拡がっていたのは鏡の世界。


どこまでも果てなく、戸惑うあたし達の姿が続いている。


迂闊に足を踏み入れれば、永遠に彷徨させられそうな空間。


方向感覚を狂わせるためだけに存在する障壁。


櫂と玲くんが居れば大丈夫。


そう簡単に考えていたのはあたしだけじゃない。


しかし――。


行けども行けども同じような場所で。


正しいのか正しくないのか判らない。


油断すれば虚像の自分にぶち当たる。


人間、極度の錯覚の餌食になれば精神がおかしくなるようで。


1番先に崩れたのは煌だ。


櫂と煌に関しては――


あたしは完全無視していたし。


いつかは来ると思っていたけれど、


やはり先に癇癪を起こしたのは煌で。


――ガツッ。


割れはしないものの、蜘蛛の巣状に激しく皹の入った鏡の壁。


煌の打ち付けた拳から血が流れ落ち、鏡から地面にかけて一筋の真紅の流れが出来ている。


それさえも気づかぬふりをして。


そしてあたし達は――。


その場所を何度も何度も目にして初めて、

この迷宮において、同じ場所をぐるぐる回っていることを知った。


錯覚ではない。


あたし達は、完全に道を見失っている。


後の石の扉が開かない今となっては、この迷宮を抜けるしか術はないというのに、どんな優秀な頭脳を持っていても抜け出れないのか。


あたしは、目にした骸骨を思い出す。


水もない、食料もない。


あんな姿になってしまうのか。


ぞくり、とした。


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