あひるの仔に天使の羽根を

・真紅 玲Side

 玲Side
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牢獄を抜けて地下から駆け上がれば、相変わらず黒い神父服を着た義足の男が立っていたが、僕の記憶がないのか、奪ったこの服装を一瞥しただけですんなりと道を通してくれた。


そんな彼に微笑みながら会釈をすれば、不思議そうにこちらをみる男。


ひゅうひゅうという呼吸音が僕に向けられる。


万が一の時のためを思って、すれ違い様鳩尾に拳を入れると、あっけなくその身体は崩れ落ちた。


やはり、素人だ。


この義足の男は声帯が潰され、地下の男達は耳が潰されている。


伝達器官が役に立てねば、こちらとしても詰問の収穫はない。


だからこそ、そこで役立てる"黒"なのか。


牢獄には、階上への他の道はなく。


仕方なく僕は、連行された時に通ってきた階段を上がってはみたものの、やはり記憶通りに、そこから行ける方向は、僕が汗ばんでしまったあの地下へと続く、元来たものしかなかった。

"断罪の執行人"が牢獄の上階にいるとしても、そこに行き着く道がない。


外界に出たくても出られない。


恐らく、僕が見逃した隠し扉のようなものがあったのかもしれないが、そんなものを探しているのは時間の無駄のように思われた。


ないのなら、作るまで。


僕は突き当たりの壁に手を置いた。


「――はっ!!」


僕の気合いと共に、掌から放たれる外気功。


轟音をたてて、穴が出来た。


外気功は、武芸の延長上で身に付けられるもので、最低限これが出来ねば紫堂の警護団になることは出来ない。


紫堂の力のような"超能力"と表現する人もいるけれど、外気功はそんな特殊なものではなく、武芸鍛錬時の鋭い集中力さえあれば誰にでも出来るものだ。

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