あひるの仔に天使の羽根を

・崇拝

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突然悲鳴が聞こえて、あたしは振り返る。


今の声は、ここの家の女の子じゃないだろうか。


あたしが慌ててドアを開けようとした時、足下の何かに躓き頭から転びそうになる。


「あぶねって」


それを煌が片手で支えてくれて事なきを得たけれど、あたしがひっかかった…足下にある青い布きれの山は一体何だろう。


煌はそんなあたしに気づかないようで、あたしを支えたまま、僅かに開けたドアの向こう側を窺っている。


あたしは正体不明の布きれを拾って両手で拡げてみる。


「服……?」


首を傾げたあたしの様子に気づいた煌は、


「あ!!! そういえば玲、あの女から服預かってたんだ。着ろ」


あたしから手を離し、変わってそれらをむんずと掴んで、玲くんに投げた。


「思わずぎょっとして落としたままでいたこと、今の今まですっかり忘れてたじゃねえかよ」


想像するに。


煌が蒼生ちゃんが用意した服を女の子から預かってこの部屋に入ってきた時、ぎょっとする何かを見て驚いて服を落としたままその存在を忘れていた、ということか。


一体何を驚いたんだろう。


聞いてみれば煌は、かなり忌々しげな顔つきで、あたしにデコピンをした。


「お前が玲と寝ていたからだろ!!?」


「へ?」


そんなに驚くことだろうか。


そう言うと、褐色の瞳は更に苛立ったような光を浮かべ、


「すんげ~、ムカツつく!!!」


あたしは更に大きなデコピンを食らった。


抗議をしようとしたあたしは、途端に煌の手に口を塞がれた。


「黙れ。……玲。どうやらあの女を脅してる黄色い奴らは、お前を捜しているようだな。脱走が何とかって聞こえる。お前、もう動けるな?」


「僕は大丈夫。それより煌はどうだ?」


「お陰様で」


玲くんは着替え終わったようだ。


見事に青色だ。


本当に蒼生ちゃんは青色が好きらしい。


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