あひるの仔に天使の羽根を

・牽制 櫂Side

 櫂Side
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俺達の後方には、地を抉った風の痕と、地を焦がした電気の…惨憺たる被害の道が延びている。


ひたすら。


ただひたすら、闇雲に。


相手の奇妙な"魔法"の発動前に力を奮い、先手必勝の体術で順々に態勢を崩して。


圧倒的な"経験値"の差で動向を牽制して畳みかけていくのは、自慢でもなんでもなく、それが一番早い解決方法だったから。


相手は、完全に俺達だけを敵とみなし、とにかく前後左右一斉に掴みかかってきたが、俺も玲も、身体の各所を僅かに回転させ、全員の躰の支点を素早くずらして地面に重ね落とせば、それは更に外側からの来襲者をも自然に巻き込んで、敵は全て互いに互いを固めあい、締め付け合うような格好で動けなくなる。


人数では負けようと、実戦経験は俺達の方が上。


しかも俺達が師事していたのは、紅皇だ。


得たばかりの力を、馬鹿の1つ覚えの様に誇示するだけの輩とは違う。


だけど。


時間が経過するにつれ、執拗に俺達の前に現れる者達は、確実にレベルが上がっていた。


それが体術であれ、力であれ……まるで切磋琢磨された生き残りが、それが当然の素質を秘めていたかのように…素人臭い動きの無駄は省かれ、闘いの最中で成長していく戦闘センスを見せつけてくる。


「やればやる程、レベルアップ……ここまでゲームの模倣かよ」


玲の忌々しげな呟きが聞こえる。


靴先に刃物を仕込んだ玲の相手は、まるで暗殺者のような…迷いない鋭い攻撃を見せていた。


それを躱せぬ玲ではないが、くるくるとすばしっこい相手に舌打ちした彼は、苛ついたのかとうとう外気功まで作動させて仕留めた。


粉砕された足。


「やはり時間がかかり過ぎると、僕達の力も安定しないね。由香ちゃん頑張れよ…」


苦笑交じりの口調でも、顔は一切笑っていない。


玲も余裕がないことを悟る。




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