約束の日
PM8:00

男は焦っていた。

机に広げられた紙にペンを走らせては、すぐにくしゃくしゃと丸めて、ごみ箱に投げ捨てる。

そしてまた、頭を抱える。

「どうすりゃいいんだよ…」

かれこれ2時間、机に向かっている。

紙に書かれた文章を見直すと、男はまた乱暴に紙を丸めた。

「…違うんだよな…」

男にはこだわりがあった。

ワープロではなく、手書きであること。

「こういうもの」を書くのには

ワープロを使った方が遥かに楽である。

しかし、男はあくまで「手書き」にこだわった。

字のクセ、大きさ、インクのかすれ具合。

それらが生み出す「人の温もり」にこだわった。

機械を使うのは安易く、時間もかからない。

しかし、感情を持たないツールで著された文章には、

何ら温かみや、その他の様々な想いが感じられない。

だからこそ男は、「手書き」にこだわった。
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