堕ちていく二人
絶望


滋賀県の琵琶湖に一月の冷たい比叡下ろしが吹き、深い蒼色をした湖面が波音をたてていた。

遥か遠くに見える比叡の山並みは、うっすらと雪化粧をしている。

36歳になった玲子は4歳の息子裕也の手を握りしめながら、琵琶湖沿いの遊歩道にあるベンチに座り、琵琶湖をゆっくりと進んで行く遊覧船を黙ったまま見つめていた。

美人で端整な顔立ちの玲子は、若い頃に比べるとかなり窶れてしまい、頬の辺りがこけ落ちてしまっていた。

身も心も疲れ果ててしまった玲子は、琵琶湖から吹いて来る冷たい風に身をまかせていた。

そして、冬の琵琶湖の底で、このまま凍りついてしまいたいと思った。

「お母さん、寒いよ!」

寒さに耐え兼ねた裕也が、身体を震わせながら言った。

「裕也ごめんね。そろそろお家へ帰りましょうか」

玲子は寒さに震えている裕也を強く抱きしめた。

玲子と裕也は琵琶湖に面した13階建てのマンションの9階に、32歳の銀行員桂司と三人で暮らしていた。


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