ひねもす月
2 赤香 きょうだい


ミーンミーンミーン……


今年は冷夏らしい、とテレビが言っていた。


「あっち……」


そのわりに、このあたりは連日うだるような暑さに見舞われている。
セミの大合唱がここぞとばかりにがなり立て、まだ梅雨明け宣言がされていないなんて、嘘みたいだ。
まだ比較的午前中の早い時間だというのに、むっとした熱気が立ち込めていた。

流れ落ちる汗を首に下げたタオルで拭い、カナタは陽炎のたつ影に目を落とす。

都会に比べると刺々しさは感じられないが、太陽はやはりここでも容赦なく照りつけてくる。時折吹く爽やか風だけが頼りだ。


夏休みに入って一週間。

カナタとミナは今日も虫取りに走り回っていた。


「おにいちゃーん」


田んぼの中にポツリとある狭い雑木林の中から、ミナの声がする。

出会った頃は蚊の鳴くようだった高めの声が、いつしか、涼やかに遠くまで響くようになっていた。

語彙が増えたわけではない。けれど、確かな進歩。



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