陽は昇り、陽は沈む
生命
「失敗」


 ライオネル博士は種の保存のための研究をしている。

 そして今、選ばれた種を冷凍睡眠につかせ、未来において目覚めさせ、繁殖させる『ノア』計画の真っ最中だ。

『ノア』計画とは、地球人類が地球に対して残した傷跡をあがなうための、全ての動植物への救済計画である。

 絶滅しかかっている種への配慮は、とにかく外観を再現し、純粋な遺伝子を残すことで示された。

 ただし、冷凍睡眠のカプセルは小さいので大きさは多少小さめのものを選ぶことになる。

 博士はそれでもライオンをコンパクトににしようとして、チャウチャウ、あるいは狛犬めいたものに変えてしまった。

 だが、未来の人間にはわからないであろうから、黙っていることにした。

 たった今は、絶滅種の遺伝子と犬の胎内で日本オオカミを復元したところである。

「今度は成功だ……多少、ころころしてはいるがな。ま、こんなところか」

 犬の祖といわれるオオカミの遺伝子を再現するのには金がかかった。

 だが、彼には目算があった。

「オオカミは世界中で絶滅しかけている。注目が集まればもっと深く研究ができる」

 彼は上機嫌。

 意気揚々と学会に発表した。

 だが……

 「外見はオオカミらしい。だが姿かたちだけなら保存する意味はない。第一、それはキメラなのかクローンなのか」

 論争は様々。

 そのとき、一人の研究者が言った。

「博士は絶滅した種がそのまま進化した姿、最終形態と仰いますが、そのオオカミは普通の犬とどう違うのですか」

 日本オオカミは身丈も小さめで、冷凍睡眠のカプセルにもちょうど収まる。

 だが、学会の意見は一致した。

『博士は長年かけて犬の研究をしていた』と。

 博士はぼやいた。

 彼のオオカミは鼻をならし、尾を振った。

「やはり、芸をしこむのは、やめておけばよかった……」

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