駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
否定してみたが、以前のような本当の否定ではない。
まだよく理解できない分野だが、この時代で一年以上の時を過ごし成長しつつある矢央の心に多少の変化が起こり初めている。
触れてみたいと思う人…かぁ。
ただ焼き芋を食べていただけなのに、秋に浸ってみただけなのに、予想外の事態になってしまった。
「その気持ちは決して悪いものではない。 きっと矢央さんを、より良く成長させてくれますよ」
「は……はあ…」
この胸の高鳴りに気づかれないように、火照る顔を煙を避ける振りして手で扇いだ。
もう消えてしまった背中の残像は一体誰だろう。
ハフッと最後の芋の欠片をくわえながら、遠くから聞こえる沖田を捜す土方の声に振り返る。
「ありゃあ、相当キてるな」
「やっぱり部屋を無断で出てきたんですね…って、もういないし」
「総司ぃぃぃっ!!」
一足遅く土方が庭に現れた時には、既に沖田はその場から逃げいた。
残された矢央と原田を土方は鬼の形相で睨み付け、二人は表情を引き吊らせながら左右に首を振った。
「総司ぃぃぃっ!」
「ありゃあ、ただ部屋を出てきただけじゃねぇな」
「……こわっ」
遠ざかって行く土方を見ながら、体の震えが止まらなかった矢央であった。
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