駆け抜けた少女ー二幕ー【完】

頬にかかる髪を指で掬い上げる。


初めて見た時より少し細くなったような気がしたが、それは痩せたからではなく、矢央が女性になっているから。


ぷにっと頬をつつくと、眉間に皺を寄せて身動ぎする。



「ふ……」


寝顔にはあどけなさが残るのを見て、土方は何故か安心した。

"好いたはれた"なんて関係ない。

恋愛などに構う暇など己にはないのだから、己を取り巻く女に興味はない。


――はずなのに、どうしてか胸をくすぐす感覚に苛立ちを覚える。




「おい、もう少し奥に行け」


寝間着に着替えた土方は、布団を捲り言ったが、やはり聞こえていないのか動く気配はなかった。


ならば仕方なくと、土方は矢央の首下に片腕を差し入れると枕を奪い、その隣に横たわる。

矢央の肩まで布団を被せてやってから自らも布団に潜り込むと、ゆっくりと瞼を閉じた。



女として意識などしていない。

してはならない。


ややこしくなるのも御免、何より今の関係が意外と心地よかった。


今晩は冷えるな。 と、土方は矢央を抱き枕を抱くように抱き締めた。


「ん〜……スゥー…」


一瞬苦しそうに唸り声をあげたが、また直ぐに深い深い夢の中へ舞い戻る。


「お前はガキのままでいりゃいい」


そうすれば、いつまでもこうして構ってあげられるのに――…。



この晩、土方は久しぶりに朝までゆっくり眠ることができたのだった。


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