駆け抜けた少女ー二幕ー【完】
「いい加減離れやがれっ」
屯所の外にまで響く土方の怒鳴り声に、皆なんだなんだと集まってきた。
騒ぎの元は、やはりあの少女。
「や、矢央さん…っ…」
「矢央っ!!」
療養中の沖田の部屋に集まった稽古中だった数名の隊士達。
幹部である永倉や原田が 「戻った戻った」 と散らせはしたが、その異様な光景に残った者は溜め息を漏らす。
「…あのよぉ、俺には矢央が総司を襲ってるように見えるんだが」
「左之、お前は間違ってないと思うぜ」
原田の肩に腕を乗せ、高見の見物状態に呑気な永倉。
出来るなら関わらない方が良い。 しかし、こんな面白い見せ物を見逃す手もない。
「矢央っ、総司は安静にさせなきゃなんねぇとあれほど言ってんだろーがっ! ああっ!」
「………いや」
「いや。じゃねぇよっ!」
土方は頭を抱えた。
最初は沖田が、あまりにも気持ち良さそうに眠っていたものだから、通りすぎようとした足が勝手に向きを変え、これまた勝手に沖田の傍に寄った。
そして次に手が勝手に、沖田の布団を捲り上げ、気配に気付き起きた沖田が戸惑う暇なく抱き付いていた。
この行動を矢央は全て"体が勝手に"と言い訳するばかり。
「せめて腕を自由にさせてくれませんか?」
変な体勢で力一杯に抱き付かれてしまっている沖田は、抱き付かれていることは良しとして、腕を自由にさせてほしいと懇願する。
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