ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~
上司の思惑

来た道を引き返す形になり、工藤さんが前を歩く。


……どうか誰にも会いませんように。


そうだ! 

制服のポケットへ無造作に入れていたものを、パーサーにこっそり渡す。

パーサーもそれをちらりと見て、頷いた。



先程と同じ、人の気配が全くないAデッキ。

工藤さんがニヤニヤ笑いながら、パーサーに語りかけてきた。


「で、さっきのことをどう説明する訳?

上司さんとしては」


「私が仕事上知り得たことは、工藤様のお名前と、ロイヤルステートに宿泊すること、お車を積み込んでいること、それからお連れ様が1名キャンセルされていることだけでした」


……確かに、陸の事務所では、乗船名簿はきちんとしたものを作っているけれど、こちらにはそれは詳しく伝えられない。

これが海外航路だと、ものすごく詳しく名簿を作るんだけれど。

特に停泊する時とか、身元がちゃんとわからないと困るもの。


「じゃあ、俺の仕事はどこで知った訳?」


「お客様ご自身が教えてくださいましたよ、私の……大切な人に」

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