ハッピー・クルージング~海でみつけた、愛のかけら~
職務の遂行

結局、パーサーの予言通り、1航海目の私は全く使い物にならなかった。

同期のまどかが船酔いもせず順調に研修を進めている様子を、ただただ羨ましいと思っているだけ。

トイレと自分の部屋を往復し、食事まで先輩に運んでもらわなくてはならないという最悪な状態だった。

食堂から毎回おかゆを運んでくれる石田さんに、謝ることしかできない。

本当に足手まといな私だったのに、みんな優しかった。


「船酔いって辛いでしょ?

私も最初はそうだったの。

仕事どころじゃなくて、とにかく揺れないところへ逃げたくなったっけ。

でもね、その船酔いの経験があるからこそ、同じく船酔いで苦しむお客様の気持ちも解るの。

人間、何事も経験しなくちゃ解らないことってあるでしょう?

あなたは1航海目で、とっても貴重な体験をしたっていう風に考えましょう」


そう言ってふんわりと笑う石田さんが、こっそり教えてくれた。


「黒田パーサーはね、船酔いしたことがないんだって。

それでも船酔いした人には優しいでしょ。

ご飯の時間の度に『岩谷の調子はどうだ?』って聞いてたんだから」




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