楽園の炎
第二章
「朱夏様。どちらに行っておられたのですか」

宮殿に帰るなり、朱夏付きの侍女が駆け寄ってきた。
昔は宮殿勤めの人間は、純粋なアルファルド人でないとならなかったため、侍女もそれなりの身分で、どちらかというと、朱夏など見下す勢いだったが、最近では流れてきた他国の人間も、優秀な人間は採用されるため、朱夏も身分相応の対応を受けている。

元々大臣の娘なので、身分はさほど低くないし、さらに先年、父親が正式にアルファルド王の側近になったことも、朱夏の立場に影響を与えた。

「もぅ、いつもそのような格好をなさって。もうお年頃なのですから、そのように肌の出た服装はおやめくださいと、何度も申し上げているのに」

朱夏自身は、今でも葵付きの武官で、特に何が変わったわけではないのだが、世間では、王の側近の娘=姫君という意識があるようで、変に朱夏に対して遠慮するのだ。
さらに、昔と似たような格好で出歩くのも、やたらと注意される。

もっとも普通の娘でも、少し大きくなれば美しいリンズに興味を示すし、十五を過ぎれば競うように化粧もし、リンズにも凝って、己を飾り立てるものだ。
が、相変わらず朱夏には、そういった兆候が現れない。

「お化粧もなさらないし、朱夏様付きとしましては、主人を飾り立てる機会に恵まれなくて、不満が溜まりますわ」

「湯浴みの後に、十分磨き上げているじゃない。あれだけ嫌がっているのに、ごしごしマッサージしておいて、まだ物足りないの? 全く、アルが満足いくまで飾り立てられたら、一体あたしはどうなるんだろう」
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