楽園の炎
第十五章
夕刻、少し西の空が赤く染まるぐらいに、憂杏は宝瓶宮を出た。

「ユウは? まだ葵と一緒なのか?」

送りに出た朱夏に言いながら、憂杏が振り返る。
朱夏は首を傾げた。

「どうかしら。身分を明かしてからは、皇太子殿下とか葵とかと一緒にいることが多いみたいだけど」

ふ~む、と考え込み、憂杏はちらりと内宮のさらに奥に目をやった。

「ユウがいれば、ナスル姫のことも聞けるんだがな。見舞いにも、行きやすいし」

おや、と朱夏は身を乗り出した。
何とも思ってないようだったのに、実は気になっていたのだろうか。

ちょっと嬉しくなったが、さすがに臥せっている姫君の元に、憂杏一人を送り込むのは躊躇われる。

「じゃあさ、あたしも行くから、一緒にお見舞いに行こうよ。ナスル姫様とは親しくしてもらってるから、姫様付きの侍女とかその辺りの兵士は、あたしのこと覚えてくれてるし」

朱夏の提案に、憂杏はなおも考え込んだ。
珍しく慎重だ。

「そうだな・・・・・・。今は夕餉の支度で、侍女も少ないだろうし」

独り言のように呟き、憂杏は朱夏と一緒に、内宮のさらに奥へと歩き出した。
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