楽園の炎
第二十章
憂杏を連れて宝瓶宮に戻った朱夏は、扉を開けた途端、強い薬草の匂いにたじろいだ。
匂いの元は、椅子に座り込んでいる桂枝の前に置かれたカップのようだ。

「ど、どうしたの? 桂枝、大丈夫?」

朱夏も憂杏も、慌てて桂枝に駆け寄った。

「だ、大丈夫ですよ。ちょっと、疲れが出たようで」

桂枝が顔を上げ、少し笑みを浮かべる。

「働き詰めでしたものね。思っていたより、気を張ってらっしゃったようですわ」

アルが言いながら、奥から数枚の衣装を抱えて出てきた。
長椅子の上に並べ、一枚一枚広げていく。

「? それ、父上のお衣装じゃないの? あ、憂杏の?」

「ええ。炎駒様が、憂杏様に似合うものを見繕って、お出ししているのです。それもそうですわよ」

と、今憂杏が着ている衣装を指す。
なるほど、と改めて憂杏を見、朱夏は納得した。
憂杏がこのようにちゃんとした衣装を持っているとは思っていなかったので、意外だったのだ。

「憂杏も、大きくなったと実感するな。私と、変わらない・・・・・・。私のほうが、少し小さいぐらいかもしれんな」

奥からの声に振り向けば、炎駒が自分の衣装部屋から出てきたところだった。
手に持った外套を広げ、憂杏に合わせる。

「うむ。外套は、これを使うがいい。衣装はそこから、好きなものを選びなさい。あまり華美なものでなくていいだろう。内々の食事会だからな」

「何から何まで、申し訳ありません」

炎駒には素直に、憂杏は頭を下げる。
炎駒は笑って、ぽんと憂杏の肩を叩いた。
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