楽園の炎
第二十六章
「うひぃ。ちょっと、もうちょっとあたしに似合いそうなの、ないの?」

今日はコアトル知事である、ククルカン皇帝の弟君にお会いする日である。
朝から朱夏は、持ってきた衣装箱の中を引っ掻き回しては、その辺りに放り出していた。
アルが、呆れたように放り出された衣装を眺めている。

「もう。そんなに選り好みしなくても、全部それなりにお似合いですわよ」

「だって、やっぱりナスル姫様にいただいたお衣装って、何て言うか、女の子っぽいんだもの。こういうのは、ああいうきめ細やかな肌の、綺麗なお嬢さんに似合うもんなのよーっ」

悶絶する勢いで、朱夏は衣装箱をひっくり返す。
この箱に入っているのは、いつもの平服が少しの他は、全て出発前にナスル姫にもらったものだ。

元々朱夏が持っていた衣装は、新たに新調したものと一緒に、別の箱に入っている。
さすがに短期間の滞在で、荷物をがんがん解くわけにもいかないので、今手元にあるのは、この箱だけだ。

「うう、一枚ぐらい、こっちに入ってるかと思ってたのに」

「何が不満なんです。これもそれも、ちゃんとお似合いですよ。ナスル姫様も、お似合いにならないものは、寄越しませんって」

朱夏が放り出したものを合わせてみながら、アルが言う。
自分にあてられている衣装に視線を落とし、朱夏はやっと衣装箱から離れ、寝台に腰を下ろした。

「そうかもしれないけど・・・・・・。でもさぁ、つくづく、生粋の姫君って、もう肌から違うんだなぁって」

ふぅ、とため息をつく。

昨夜、アルと温泉に行くと、先にナスル姫がいたのだ。
他にも大勢の侍女が入っているし、ナスル姫も何ら気にせず一緒に入っていたのだが。
改めて、ナスル姫の美しさに、圧倒されたものだ。

肌の色こそ夕星のように、ククルカン独特の浅黒さだが、長年磨き上げられた肌は、まさに珠のよう。
傷一つ無い、滑らかな肌は、同じ女の朱夏から見ても、惚れ惚れするほどだった。

---ああ、この肌を、あの憂杏が我が物にするなんて・・・・・・---

つくづくと、朱夏は頭を抱えたものだ。
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