楽園の炎
第三十三章
「ねぇねぇレダ。ちょっとさ、憂杏のところに行きたいんだけど」

ある日の夕暮れ、朱夏はテラスに続く大きな窓の前で、外を見ながら言った。
傍にいたレダは、すぐに周りを見回す。

「あのさ。お供は、あんまりいないほうが良いの。落ち着かないんだよね。待ってもらってると思うと、ゆっくりもできないし。レダだけで良いんだけど」

本当は抜け出して行きたいところだが、あまり勝手な行動を取るのも気が引ける。
ということで、一応近くにいたレダにだけ、相談したのだ。

それに、レダなら腕も立つ。
連れて行くなら、武闘派の侍女の筆頭であるレダだろう。

「そうですね・・・・・・。今なら、兵士は兵舎での夕餉の支度でしょうし、おそらくアリンダ様も、お出かけから帰ってきたばかりか、まだ帰られていないかといったところで、ばたばたしているでしょう。今なら良いかもしれませんね」

「じゃ、さっさと移動しちゃおう」

言うなり朱夏は、窓を押し開いてテラスに出た。
そして、レダと一緒に庭を駆ける。

「えっと、あっちのほうよね。ずっと外から行けるかな?」

小走りで庭を駆けながら、朱夏はなるべく人気(ひとけ)のないところを選んで進んで行った。

だがさすがに、ずっと外から行けるわけでも、誰にも会わないで進めるわけでもない。
しばらく行ったところで、前方から兵士が何人か歩いてくるのが目に入った。

慌てて朱夏は、走る足を止めて、できるだけ大人しく進む。
少し近づいたときに、やや後ろをついてきているレダが、はっとしたように顔を上げた。

遠目からだとわからなかったが、五人ほどの兵士を引き連れているのは、最も会ってはならない、アリンダ皇子ではないか。
< 641 / 811 >

この作品をシェア

pagetop