楽園の炎
第三十七章
「朱夏様ぁ、手順は覚えましたか?」

アルが香油を手に、湯殿に入りながら言う。
湯の中には、精魂尽きて燃え尽きたような朱夏が浮かんでいる。

「ほら、いい加減になさらないと、折角覚えた手順が、溶け出してしまいますわよ」

朱夏の腕を引っ張って湯から上げながら、アルが言う。

「うう・・・・・・。恐ろしいこと言わないで・・・・・・」

のろのろと、朱夏が湯から上がる。
そのままふらふらと長椅子の傍まで行くと、倒れ込むように寝転がった。

「お疲れですわねぇ。お肌に良くありませんよ」

身体に香油を擦りつけながら言うアルに、朱夏は寝そべったまま、大きくため息をついた。

「あ、あんな細かい手順、とても覚えられないわよぅ。ああ、どうしよう。ただでさえ、式には皇帝陛下や皇后様、あと強面の重臣とかの目も光ってるっていうのに。あれが終わったらこれをして、こっちを向いてあれを・・・・・・」

ぶつぶつ言っているのは、結婚式の手順である。
神殿の中で行われる皇家の式は、大帝国の司祭らしく、やたら威厳のある老司祭と皇帝陛下の仕切りで行われる。
その手順たるや、とても覚えきれない細かい動作の羅列である。

「あんな動作を全部完璧にするなんて、絶対無理。ああ、でもあたしがしくじったら、ユウに迷惑がかかっちゃう。うう、プレッシャー」

「駄目ですよ。もっとリラックスリラックス。お肌に出ますよって」

全身くまなくマッサージしながらアルが言うが、あの膨大な作業を全て覚えなければならないと思うと、とてもリラックスなどできない。
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