楽園の炎
第一章
ぶらぶらと、朱夏は時折道端や木に生っている森の恵みを賞味しながら、森の中を歩いていく。
微妙な獣道があるだけの、鬱蒼とした森は、属国になってから流れてきた外国人はもちろん、この国の民でも、好きこのんで奥まで入り込む者はいない。

だが朱夏は、慣れた足取りでずんずん奥へと進んでいく。
昔から遊び場所には、もってこいの場所だったのだ。

「はぁ。歩いたら暑くなっちゃった。泉で一泳ぎしていこうかな」

獣道を抜ければ、綺麗な水を湛えた大きな泉があるのだ。
知る者もそういないだろうその場所は、幼い頃から朱夏のお気に入りの場所である。

考えただけで楽しくなり、朱夏は片手に持ったマンゴーを、手の上でぽんぽんと投げながら、泉へと急いだ。

前方に、きらきら光る水面が見えてきたところで、朱夏はふと足を止めた。
じっと前方を睨み、耳を澄ます。
僅かに聞こえる水音。

---魚・・・・・・じゃないな。誰だ?---

お気に入りの場所を先に取られて、少々気分を害しながら、朱夏は足音なく走り出した。
泉の少し手前の木の陰から、ひょいと水面を窺ってみる。

光る水面に、浅黒い肌の人物が現れた。
その人物は、顔を出すなり勢い良く頭を振って、髪の水気を飛ばす。
中途半端な長さの漆黒の髪が、動きに合わせて軽やかに揺れた。
細身のわりに、程良く筋肉のついた、引き締まった身体だ。
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