この恋は秘密
第9話 翔と受験勉強。
「演歌が好きなの?」

翔がテキストを開きながら、足を組む。

「パパに似てる……から。声とか、顔とか、何となく。それで……」

あ。
今の回答失敗。
これじゃ、まるで自分がファザコンだって宣言してるみたいで、余計、恥ずかしくなった。

「……そうか、ごめん」

翔の言葉に思わず、うつむきかけた顔を上げた。

「さっき、笑ったりして悪かったよ」
「い、いえ。フツー笑いますよ」
「でも、ごめんな。そうか、親父さん、こんな顔してたんだ。そう言われてみれば、似てるよな。橋本壮吉大先輩に」

私の机の上にある父の微笑む写真を翔が見つめた。

申し訳なさそうに謝り微笑む翔の瞳に、頬がかぁ~っとなってしまう。

それから、私達は黙って試験問題に集中した。

「綾乃さん、ごめん、ここだけど……」
「はい?」

顔を上げると、翔の長い睫毛がすぐ目の前に見えた。

慌てて、首を振り、問題に集中する。

「ああ、これは、構文を使うんです。だから……」

ふんふんと頷きながら翔が真剣に聞き入る。

解説した後で、翔が感心したように私を見つめた。

「綾乃さんって、頭いいね。マジで。これで俺とおない年かって驚くよ」

今までいろんな人からそう言われて来たけど、本当に褒められたような気がしたことが無かったのに……

どうしてだろう。

この人が言うと素直にストンと言葉が胸の中に落ちて来る。

正直に嬉しくなってしまう。

「あ、ありがとう……」

翔があぐらを掻き、両手を後ろにつくと、「げっ!」と声を発した。

「桐欄学園特進Aクラス?!」

翔が立ち上がり、私の時間割を見た。

そして、本棚にある『テスト』と書いたバインダーを手に取り、「すげぇ」と感嘆の声を上げる。

「ほとんど100点ばっかじゃん!」




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