骨董絵巻[甘い猫]
蓋を閉める
その後すぐに大口の契約が決まり、兄の事業は急に上調子になりました。家の中もすっきりと明るくなった気が致します。


待ちに待った日。
姉夫婦が家にやって参りました。珍しい土産物をどっさりと机に並べてくれます。その中の一つに私は、はっとし目を奪われました。


手紙をしまう為の、飾り文箱。


鈴をつけた猫の蒔絵が、四季折々の花と共に蓋の中央に描かれています。


「骨董屋で見つけたものだが。中に入れた、大事な書状を鼠にやられないように、と猫の意匠なんだね。古いけれど良い物だよ。その文箱、気に入ってくれたかな?」


にこにこする義兄。


・・家に巣食う物の怪を退治した猫は、この蒔絵の猫に違いありません。死んだタマの仕業かも、と考えていた私ですが。


震える手で文箱の蓋を取ると、ふんわりと甘い香り。以前の持ち主の残り香でしょうか。


「ありがとう、義兄様。大事にします。」


私はやっと、それだけ言いました。


可愛らしくも不思議な文箱。猫は姉の手紙に乗り移り、わざわざ私を助けに来てくれたのでしょうか。


「義兄様のように優しい人か兄様のように真面目な人なら、お見合いをしてもいいわ。」


私は決心し、こっそり姉に打ち明けたのでした。


皆に心配され、助けられてばかりの弱い私。これではいけない。家族を、そして私の猫を守れるくらいの力を身につける為の。一歩を踏み出してみることに致します。



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