【完】Lost voice‐ツタエタイ オモイ‐
そんなとき、柚が不安そうな目で携帯を見つめているのに気づいた。
きっと、出なくていいの?と思っているに違いない。
「いいんだよ、出なくても。相手はわかってるから」
そう、相手はあの人。
自分が用事のある時だけ呼びつける、自分勝手な人。
俺を、心の底から憎んでる人。
「それに運転中は電話、ダメだしね。お巡りさんに怒られちゃう」
そうおちゃらけて答えると、柚はわずかに頬を緩めた。
電話は、やがてプツリと切れた。
そのことに、そっと安堵する。
「それで、この道であってるよね?」
俺の質問に柚はこくりと頷く。
車を発進させる前、柚にはカーナビの画面で家の場所を教えてもらった。
本当に、日本は便利なものが多いな。