車は大きな料亭の日本式の門をくぐり、タイヤが砂利をパリパリと踏みながら、広い駐車場に入って行く。

「ようこそおいで下さいました。奥田様」

課長と私は、スーツを着た年配男性に深々と頭を下げられ、もう一人のスーツの男性に助手席のドアを開けてもらう。


えっ?!

あまりにも親しげな男性達の対応に、思わずギョギョギョッとする。


もしや、課長、ここの常連なの??

差し出されたイケメン風の男性の手に自らの手を乗せ車を降りる。

気分はぷちっとセレブ。


でもそんなセレブ気分も格式のある日本家屋と広大な庭園を目の前にすると圧倒される。

灯篭(とうろう)には、ほんのりと灯りが灯っていて(あの灯篭だけでも私の3カ月のお給料分はありそうな気がする)、すごく雰囲気がいい。

そう言えば、さっきの駐車場も高そうな外車ばかり止まってたぞ。


もしも~し、おーーーい、課長?!


こんなに高そうなところ、新人(つまり、私)の吹けばぶっ飛ぶようなうっすーーいお給料じゃ、豆腐代も出せないと思うんですけど……。


おどおどしつつ、課長の後ろに付いて行きながら、ふと玄関の右横を見て、ここに来た理由が分かる。




断崖絶壁。

下は海。



そっか。

この火曜サスペンス劇場ばりのここから、私をエイッ!と突き落とすつもりなんですね。

ここが私の人生の墓場なのね。

グッバイ、私の人生。

「まぁまぁ、奥田様。ようこそ、おいで下さいました。
あら、今日は可愛らしいお嬢さんをお連れなんですね」

着物がばっちりの女性が、玄関口までニッコリお出迎えする。

なんか、松本清張とかの小説に出て来そうな木村多江似の薄幸美人だ。

「私の部下の杉原由紀(すぎはらゆき)君だ」

課長は無愛想に私を紹介する。

私はペコリとお辞儀する。

「ま。奥田様が女性をお連れになるのは初めてですわね。しかもこんなに可愛らしいお嬢さんなんて。私どもの仲居達が知ったらきっとがっかりすることでしょうね」

おかみさんがクスクス笑う。


へぇ~。
課長、もてるんだ。

あ。

でも、そうだよね。

うちの女子社員達の間での『抱かれたい男』投票でも、課長は毎年、10年連続1位って聞いた。

みんな見た目に騙されてる。

鬼なのにね。



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