これは、事実
地震
「………」
揺れがおさまって、椅子から顔を出して周りを見渡したとき、言葉は出なかった。
体育館はメチャクチャ。
並べた椅子はゴチャゴチャで不規則な並びになっていた。式台は真っ二つで、紅白幕は力なく足れ下がっていた。
上を見上げると、天井はなく、虚しく広がる青い空。
空だけ見てれば、地震なんてなかったようだ。
……何も、なかったようだ。
「………」
せめて卒業式は成功させて、気持ちよく送ろうと思って準備した式場が。
「こんなに簡単に…」
わたしの直感は、また当たっていた…。
しばらく、理解できずに突っ立っていた。
体育館に取り残された何人かの生徒がそのうち動き出す。
「たっちゃんがいないの…!私探しに行く!」
「何言ってんの咲世!ここから動いたら危ないじゃん!」
「でも…」
そんな女子たちの会話が聞こえて、また不安になる。
「和子…!先輩…!」
探しに行かなくちゃ。生きているか確認しなくちゃ。
その気持ちだけが私を急かした。
体育館の出口を見つけて、校舎に入ろうとした私を、
「田辺遥!」
誰かが呼び止めた。
「…安藤ちゃん…」
私のクラスの担任、安藤夏樹。みんなからは、安藤ちゃんの愛称。
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