6月の蛍―宗久シリーズ1―
玄関に出ると、女性が立っていた。



歳は多分、二十代後半くらいだろうか。


いや、もう少し若いかもしれない。



歳を経て見えたのは、彼女が着物姿だったからだろう。




藤色に、白い百合の花模様の着物。


長い黒髪をきっちりと結い上げ、小さな鼈甲の簪が、薄暗い空間で微かな光を反射させている。



その立ち姿からは、品の良さが感じられた。




静かに佇む姿は、まるで幻……。







「夜分に申し訳ありません」



僕を見上げた彼女は、ゆったりと頭を下げてきた。







白い肌に、薄い桜色の口紅。


控えめな化粧だが、それでもこの女性の美しさに、息を飲んでしまうくらいだ。





「あの………」



数秒の間を置き、彼女の桜色の唇が用件を発した。






「弘文さんはご在宅でしょうか?」




「え?」






………弘文…って…。




その名前に、僕は眉をひそめた。






「弘文は、三年前に他界しておりますが……」



「え……………」





彼女は、驚きに言葉を詰まらせた。


見開いた黒瞳が、僕を刺す様に見つめる。
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