6月の蛍―宗久シリーズ1―
記憶6
決して出てはいけない。




義弟は帰る際も、再度確認をしていった。



懇願するかの様な訴えに、私は心中で謝罪しながらうなづき、手を振った。






私は、夫の次に信頼している義弟さえも欺いている。









私はいつか、重ねた嘘で身動きがとれなくなるかもしれない。


罪の意識の重さで、押し潰されるかもしれない。




言葉に出来ない不安が冷たい風となり、胸中に吹いた。





それでも、どうする事もできない。











金森との約束の時間が迫る。


柱時計の針だけが、無情に刻まれる。





それは、動けない私の背後から忍び寄る、亡者の息遣いの様に感じられる。







金森との関係は、すでに半年にまで続いているにも関わらず、私はあの男の身体には慣れない。





金森が私に触れる………。



それは私にとって、沼地の泥を身体に塗られている感覚。


暗い穴の中から、ちぎれそうなくらいに腕を引かれている感覚。



身体が、四散しそうな苦痛………。






私はただ、金森の身体が離れるまで、心を堅くして耐えるしか方法が無い。


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