甘い君の唇にキス~恋の秘密は会議室で~
元カレと偽カレ

   
二日酔いでダルさが残る体での外回りは結構堪える。

営業日報を書き終えたら、今日は早々に退社しよう。

会社に戻ってエレベーターを待っている時だった。


「カナ!」

少し離れた所から、聞き覚えのある声で名前を呼ばれると、あたしの体は条件反射のように強張った。


そのまま、立ち去ることも出来ずにエレベーターを待つ。

お願い、早くきて!

チン

ゆっくりと扉が開いた無人のエレベーターに乗り込み閉のボタンを連打する。

目の前に、その姿が迫っていた。


「カナ、待てよ」

そう言って、体を滑り込ませたスーツ姿の男は元カレの浩二だった。

相変わらず一見爽やかそうに見える浩二はあたしより一年先輩の営業マン。

今は関連会社に出向していて、こうやって会社で顔を合わせるのは珍しいことだった。

「やっと会えた」


あたしは会いたくなかった。

小さく溜め息を吐いて営業部がある7Fを押すと、僅かな浮遊感と共にエレベーターは上昇していった。


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