渇いた詩
「お見合い?」


「先方がサクのことを気に入ってくれてね。会うだけでいいから。頼むよ、サク」



その話をお父さんから聞いたのは仕事に向かうときだった。



「ごめん……今、そんな気分になれないんだ」



本当に悪いと思うけど、



久弥以上にあたしの心を支配してくる人間なんて、いない。



「行ってきます」



靴を履いて、玄関を開けようとしたとき。



「サク、待ちなさい」


「何?お母さん。あたし急いでるんだけど」



決して急いでる訳ではない。



でも、これ以上お見合いについて話たくなかったから嘘をついた。



「さっきのお見合いの話だけど。お父さん、あんな風に言ってるけど最初に先方に声をかけたのお父さんなのよ」


お父さん、が?


「海藤さんと別れてから、サク、元気ないから。お父さんも心配してるのよ」




蒼さんも、美奈さんも、


お父さんも、お母さんも、



ずっとあたしと久弥の心配をしてくれてる。




ねぇ、久弥……。



前に進まなきゃ、だよね?
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